饒速日(ニギハヤヒ)伝承
承前 太陽神と斉王の制度
最近、『物部氏の伝承』(畑井 弘)三一書房1998年7月初版 を読んでいるのですが、難しくて何度読んでも、ボンクラな頭では理解できないでいる。ただ、ニギハヤヒとその息子のウマシマジノミコトに関して、及び、桜井茶臼山古墳の存在する鳥見・鵄・外山に関する考察が面白くてメモを残すことにした。
ニギハヤヒノ息子ウマシマジノミコト
一般に、ニギハヤヒが長脛彦の娘であるトミヤスビメ(登美夜須毘売)との間にウマシマジノミコトが授かった事は誰でも御存知ですね。物部氏の祖はニギハヤヒという説と、このウマシマジノミコトという説がある事も有名な話です。問題は、畑井さんは『古事記』の記述である、可美真手命(今まで一般的には書紀の宇摩志麻遅命の記述や先代旧事本紀での宇摩志麻治命の記述から可美=ウマシと読んでいた)の読み方に異論を唱えています。
可美とはカミで朝鮮語で剣の事を指すそうであり、カルも同じ朝鮮語では剣や刀を指す言葉だそうです。そういえば、以前に記録した秦氏の故郷である宇佐地方での鹿春や香春神社・香春岳と採銅所の新羅系の鍛冶神について、渡来系の人々が鍛冶神をカルと呼んでいた事を思い出しました。ヤマトでも軽(カル)という宮都名が残っていますね。
畑井さんの仮説によれば、日本語における「神カミ」は朝鮮語の「剣」を神霊ととする鍛冶王的な首長によって持ち込まれたものであり、軍事的に征服戦争を繰り広げたヤマト大王権の発展過程で生み出され作りあげられていった古語であると述べる。即ち、神秘的な光を放つ剣の金属呪力を信仰した古代人の「韴霊(フツノミタマ)」信仰を示す古語であるとする。このような観点から、「可美」「甘美」は、その聖なる神威からやがて、美称的な「ウマシ」と訓みかえられるようになったと考える。
まとめると、本来は「韴霊(フツノミタマ)」と同義の「カミ、剣」の表音表記であると結論する。
真手・麻遅・麻治・真治は槌である
それでは、ニギハヤヒの息子のウマシマジノミコトの正体は何でしょうか。名前の真手・麻遅・麻治・真治に決めてがあるようです。マジ・マデ・マテを朝鮮語で置換すると槌、とんかち、大きなハンマーという意味だそうです。とすれば、可美真手命とは鍛冶道具の槌に象徴された鍛冶神の事であり、鍛冶氏族の祖霊「剣」となる。従い、可美真手命という名前は一般名詞であり全ての鍛冶技術者集団の守護神であった事を意味しています。
登美毗古(トミヒコ)とは誰だ
書紀ではウマシマジノミコトのお母さんは長脛彦の妹と記述されているが、古事記では登美毗古(トミヒコ)の妹である登美夜毗売(トミヤヒメ)と記録されています。畑井さんの仮説では、長脛彦は蛇と銅鐸を崇める一族であり、新しい鍛冶集団ではないと述べる。彼の根拠は、長=Na Ga ナーガ 蛇神を意味し、脛=朝鮮語ではスネは鐘+邑=銅鐸作りの村という意味だそうです。蛇神を崇敬し銅鐸を製造する集団という事になります。そういえば、三輪の神は蛇神でしたね。ナーガというのは私もカンボジア紀行をした時に頭が幾つもある蛇神=ナーガと出合いました。
ウマシマジ即ち物部氏や穂積氏などの祖は決して、銅鐸や蛇神を祭神とする種族でない事を言いたいのでしょうね。
それでは、登美(トミ・トビ)族とは一体誰の事なんでしょうね。ニギハヤヒは私の故郷の近くの交野(肩野物部氏の拠点)に降臨し、ヤマトの鳥見(トミ)に遷られたと先代旧事本紀に記録されていましたね。神武天皇は鳥見山を先祖の霊が眠ると祭祀をし、ヤマト決戦時に金の鵄(トビ)が舞い降りたというトビという場所です。(現在は外山=トビと書きます)
桜井(外山=トビ)茶臼山古墳は半世紀ぶりに橿考研により再掘されましたが、後円部中心の竪穴式石室より空前絶後の200㌔を越える朱が使われていたという報告が日本中を驚かせましたね。明らかに、製鉄や鍛冶に関わる人々が関与しなければ、実現出来ない古墳時代初期の巨大前方後円墳でしたね。
参考 桜井茶臼山古墳関連
(追伸)
そういえば、先日訪問した近江の三上山(近江富士)の麓の伊勢遺跡、守山市には物部郷が存在していたようですね。製鉄や鍛冶と言えば奈良盆地よりも、タニハ(丹波・丹後)と琵琶湖周辺、西岸の高島や穴太、東岸及び北の伊吹山(息吹山)の息長氏の故郷となりますね。物部連や物部氏を分解すると物具を製造している部門の集団と戦闘集団に分離するべきかもと以前にメモをしました。
タニハ集団(倭姫命の母体、聖徳太子のお母さんの母体)、近江の製鉄集団即ち、崇神王朝と並列して存在した可能性の近江王朝、これと物部氏及び息長氏、和邇氏の関係が今だ解けない謎です。
「日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事
- エゾライチョウとクマゲラを見る旅 総括編(2018.07.09)
- 2018年春の渡りの飛島 総括編(2018.07.09)
- 南ゴビ砂漠探鳥紀行(2018年6月15日~20日) 総括(2018.07.06)
- 2017年 春の渡りの飛島記録(2018.05.15)
- 豪州鳥見紀行 ケアンズ・エアーズロック・シドニー チエックリスト(2018.02.21)
Comments