古代海人族と鹿の深い関係
以前に弥生時代の土器に描かれた線刻画について記事を書きました。弥生中期の頃から急に弥生土器に鹿が数多く描かれるようになり、且つ、銅鐸にも鹿が多く描かれるようになりました。単に獲物として、狩りの対象として鹿が描かれているのではない事に気が付きます。
参考 弥生土器の線刻画 弥生時代の信仰(その1)(2011年9月4日)
参考 弥生土器の線刻画 弥生時代の信仰(その2)(2011年9月5日)
過去の記事で、弥生時代から突然に鹿の猟が激減し、卜占で肩甲骨を利用されるとか神事で使用される特別な存在になった話を記録しました。
今年、京都のMuの旦那と九州を一緒に旅をしましたが、その時に金印で有名な志賀島を訪れ安曇族の元締めの神社である志賀海神社を訪問した。其処では、鹿の角を収蔵した蔵(鹿角倉)が存在していました。海人と鹿の角はどのような関係か気になりましたが、特に神功皇后の鹿狩りの行事と関係があると話は聞いていた。この神社に願いをかけて成就すると板に鹿の角を揃いで結びつけ海神に捧げる為に海に流すそうだ、そして近くの海岸に漂着した鹿の角をこの倉に収納しているそうです。
先日、大倉図書館で借りた本、『鹿と鳥の文化史(古代日本の儀礼と呪術)』平林章仁、白水社、を読んで特に海人と鹿との密接な関係で気になる部分のメモを残したいと思います。
『海人と鹿猟』
『日本書紀』では允恭天皇14年の記事として、陸上での狩猟でも海人の助けが無ければ成功しない主旨の記事がある。天皇が淡路嶋で狩りをした時に鹿を始め獣が沢山存在するのに全く狩りが成功しなかった事がありました。理由は淡路嶋の神さん(多分、イザナギの神だと思います、彼は淡路嶋で亡くなっています)が自分に明石海峡の海の底の真珠(しらたま)を捧げれば狩りは成功すると述べる。
允恭天皇と言えども海人の助けが無ければ陸上での狩猟が成功しない事を述べた例です。結果は阿波国の長邑の海人であるオサシが海底に潜り大アワビを獲得し真珠を得るが彼は力尽き死んでしまいます。天皇の狩猟が海人と深い関係がある事の事例です。
『肥前国風土記』でも海人の狩猟の話が記録されている。長崎県五島列島に値嘉嶋の海人(白水郎)は多くの牛馬を飼育し容貌は南九州の隼人に似ており、常に騎射を好み言語も俗人と異なると言う。五島列島の海人は漁業だけでなく牧畜や騎馬に優れた人々であった事を述べている。鹿を海に追いこんで狩猟する事も彼らの得意だそうだ。
『尾張国風土記』逸文では、海人の鹿崇拝の記事を記録している。聖武天皇の時代に岐阜県羽島市、当時は葉栗郡川嶋村の川嶋神社の神が白鹿と化して出現したので、同社を天社としたという記録。川嶋村から木曽川を下ると海部郡海部郷に至る。此処を本拠とした海人が信奉した神社が川嶋社である。
『鹿児弓・鹿児矢』
古代の日本の弓について『三国志』魏書東夷伝倭人条にて、以下のような記述が存在する。「兵には矛・盾・木弓を用う。木弓は下を短く上を長くする」とあります。銅鐸に描かれた絵画でも握りの位置を弓幹よりやや下にした長い丸木弓でありました。その頃の中国では騎兵用の短い角弓と歩兵用の長い木弓が存在した。長弓は長い矢を射る時に必要であったという。
長弓は空中では不利だが、水中を貫通するには有利であり、水中の魚を射るには最適である。日本では最近まで薩南地方や奄美で水中の魚を弓で射る漁業をしていた。要するに古代日本の弓は海人が使用する弓が主流であった事になる。
『日本書紀』では天稚彦(あめのわかひこ)が天孫降臨の時に天照大神から授かる弓矢が『天鹿児弓(あまのかこゆみ)と天真鹿児矢(あまのまかこや)』である。これは、鹿を射る長大な弓矢である。「カコ」が鹿と水手(カコ)=海人の両者を同時に連想させる語であり、鹿を射る弓矢であるとともに、水手らの用いた水手弓。水手矢でもありました。
「カコ弓・カコ矢」とは船上より魚や海獣、鹿などを射止めるのに水手(海人)が用いた弓矢でありました。
鹿は海を泳いで渡る動物です、海人は航海中にこの鹿の渡海に遭遇し無防備な鹿を弓で狩猟する歴史を持っていた。狩猟とは山や野でのみ行われる事では無く、多くの動物は水辺に集まる性質があり海人はそれらの動物を狩る狩人であった事実も見逃せない。
ところで、蛇足ですが、鹿児島とは桜島にカコ(水手=海人)が多く住んでいた場所という意味なんでしょうね。鹿島神宮も海人と関係が深い神社だと思います。事実、鹿島神宮を勧進した春日大社では鹿が今でも神の使いとして重要です。
銅鐸に白羽の矢が刺さる鹿の絵が多く存在します、撰ばれた鹿は生贄の儀式が古代には存在していたのではないだろうか。メキシコ帰りの私にはそんな気がする。仏教が伝播し東大寺が出来て春日大社では鹿の生贄の儀式は廃れたのかも知れない。
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