古代日本列島人の蛇神信仰について その2 筒と住吉神
谷川健一氏の『古代海人の世界』を典拠として、筒族に関する古代の歴史・神話に触れてみましょう。
(筒=ツツ=蛇 に由縁のある神)
『古事記』によれば、イザナギさんが死んだ奥さん(イザナミ)に会う為に黄泉の国に行き、何とか逃げかえりました。そして、日向(ひむか)の橘の小戸(おど)の阿波岐(あわき)原で禊(みそぎ)をした時に海の神、六柱が誕生しました。即ち、阿曇連(あずみのむらじ)の祖神となる三柱、上津綿津見神(うわつわたつみのかみ)・中津綿津見神(なかつわたつみのかみ)・底津綿津見神(そこつわたつみのかみ)、そして墨江大神の三柱である上筒之男命(うわつつのおのみこと)・中筒之男命(なかつつのおのみこと)・底筒之男命(そこつつのおのみこと)です。
そこで、筒之男命についてですが、谷川健一氏はその正体は蛇身の女神であると結論しています。『神功皇后摂政前紀』には、以下引用文:~日向国の橘の小門(おど)の水底に居て、水葉(みなは)も稚(わかやか)に出(い)で居る神、名は表筒男(うわつつお)、中筒男(なかつつお)、底筒男(そこつつお)の神有(ま)す。~以上引用終わり。
この解釈は「水葉も稚に出で居る神」は「海草のように若々しくて生命に満ちている神」と解釈するのが普通である。民俗学者の大御所の折口信夫氏は「出雲国造神賀詞(いずもの くにのみやっこ かむよごと)にみえる「若水沼(わかみぬま)」と同じく、若い水の女神と解している。その若い水葉(みなは、ミツハ)の神は、水底にいる蛇身の女神である。それが、筒男というのであるから、筒男が蛇にあやかった名前である事が判る。
わたつみ、という言葉は戦前には良く話された言葉ですね。最近の若い人には馴染でない言葉かも知れません。墨江大神とは全国で2000社は存在するという、住吉大社の神々の名前です。今はスミヨシと発音するのですが、昔はスミノエと発音していました。そして、筒男とは男神ではなくて、女神である事に驚きませんか。海の神は宗像の神もそうですが、女神と決まっているのです。
これは、世界共通かも知れませんね、船の名前もドイツ語でも英語でも船は女性名詞でしたね。
(筒のつく地名と住吉神)
地図を見て下さい、筑前糸島郡雷山には雷神或いは筒神と呼ばれ、住吉の筒男神と同じ聖なる場所と、壱岐国石田郡石田郷にも筒城(つつき)と呼ぶ海神(わたつみのかみ)が存在し、対馬にも豆酘(つつ)を本拠にしていた海人が存在していたと田中卓氏が述べている。
筒男神は対馬、壱岐、筑前糸島郡を拠点とする海人であったようです。神が三柱存在すという事は対馬、壱岐、筑前に拠点を持つ海人が連携して大陸と倭国の貿易を支配していた可能性があります。
丹後国与謝郡筒川も住吉神の筒之男と関係が深い場所です。近くには浦嶋神社があり、『日本書紀』の雄略天皇条にある「丹波国の余社郡(よざのこうり)の管川(つるかわ)の人、瑞江浦嶋子(みずのえの うらしまのこ)」とあります。
『丹後国風土記』にも「与謝郡筒川の村の、水の江の浦嶋の子」という記述が有ります。又、『万葉集』にも高橋虫麻呂の長歌でもこの場所が歌われている。
常陸国鹿島郡賀村にも筒井という地名が存在する。その地に隣接して息栖神社があるが、於岐都説神社(おきつす)とも呼ばれ、住吉三神と同じと考えられている。
現在の神戸市灘区に敏馬(みぬめ)神社があるが、『摂津国風土記』によれば、神功皇后が朝鮮半島に遠征する時に船を作り、協力した美奴売(みぬめ)という神がいたという、皇后は帰還後、労に報い神社を建てたそうだが、そこは住吉神の管轄下だったそうだ。
そして、その近くに今も筒井という地名が残っており、住吉神と筒井の表裏一体の関係が判る。
私が生まれ育った招堤村の近くに、継体天皇が宮を置かれた筒城宮があります、そして綴喜郡(つづきぐん)という地名があります。これも、住吉三神と関係が深い場所ではないかと思います。
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Comments
こんにちは。「住吉神は実は女神である…」。私も常々そう思っていました。
それを確信できる事ができて、大変うれしく思いました。
分かりやすく書いていただいて、大変助かりました。ありがとうございました。
他の記事も、ゆっくりと読ませていただきます。
Posted by: nakamura.t | 2010.11.14 01:37 PM
nakamura.tさま 初めまして
コメント有難う御座います。住吉の神様にご興味がおありのようですね。関西の人なら、馴染の神さんですね。
海で生きる人々にとり、女神さんが似合うようですね。汗臭い野郎ばかりの船乗りが、憧れるのは女神さんではないでしょうか。
昨夜、明日香村から帰還しましたが、快晴に恵まれ飛鳥駅で自転車を借りて走りまわってきました。最近は大型の観光のバスが乗り付け、随分と賑やかになりましたね。
猿石の前で、中学生が沢山見学していましたので、彼らに説明をしてあげました。
Posted by: | 2010.11.17 01:37 PM