第五回 三輪山セミナー(その弐)
(B) ワニをめぐる伝承
① 語臣猪麻呂(かたりのおみいまろ)とワニ 出雲国風土記
・出雲の意宇郡安来郷に語り部の猪麻呂という人がいましたが、彼の娘が海岸で遊んでいると、和邇(わに=サメ)に遭遇し食い殺されてしまった。父は亡骸を海岸に設置し嘆き悲しんだ。「天つ神千五百万(ちほよろづ)の柱、国つ神千五百万の柱、並びにこの出雲に鎮座なさる三百九十九の社(やしろ)の神々、また、海神(わたつみ)たちの、大神は荒魂(あらみたま)は力をだして、猪麻呂に味方し娘を殺したワニを殺させて下さい。
すると、百匹あまりのワニが一匹のワニを囲み猪麻呂のいる場所近くまで引き連れてきた。そして猪麻呂はそのワニを殺しお腹から娘の向こう脛を取り出した。
② タマヒメとワニ 出雲国風土記
・仁多(にた)郡の恋山(したひやま)には、ワニが阿伊(あい)の村に鎮座されている女神の玉日女(たまひめ)の命(みこと)に恋い慕って上ってきた、しかし女神は石で川を塞き止めたので、会えずに恋い慕った。その為にそこを恋山(したひやま)と言う。
③ ヨタヒメとワニ 肥前国風土記
・佐嘉(さか)郡に佐嘉川(現在の佐賀市の嘉瀬川のこと)という川があり、上流には石神(いしがみ)があり名前は世田姫(よたひめ)がおられた。海の神(ワニ)は海の魚を沢山ひきつれて川を遡り彼女に会いに来て、二三日逗留し又、海に帰った。
(JO感想) ワニは海の神であるようですね、海岸ではワニを神として頂く集団が沢山存在したようです。ワニと言えば因幡の白兎の話が有名ですよね、何れにせよワニは海を生活の場としていた海洋民族のシンボルだったようです。このワニとその後のヤマト王権が生まれたあとの和邇氏(王仁氏)との関係が興味のあるところです。
ミニリサイタル 「万葉の悲恋 高市皇子、三輪山に歌う」
藤野カヨさんです。彼女は万葉集の歌に曲をつけ綺麗なソプラノ独唱をされる有名なおかたです。
今回は額田王と大海人皇子との有名な相聞歌と二人の間に生まれ天智天皇の息子の大友皇子の妃となった十市皇女(とうちのひめみこ)と天武の長男の高市皇子との悲恋の歌を披露された。
茜さす 紫野行き標野行き 野守は見ずや 君が袖振る (額田王)
紫の におへる妹を 憎くあらば 人妻故に 我れ恋いめやも (大海人皇子)
三諸の神の神杉(かむすび) 夢(いめ)のみに見えつつ 共に い寝ぬ夜ぞ多き
(高市皇子)
神山(みわやま)の山辺まそ木綿短木綿(ゆうみじかゆう)かくのみ故に 長くと思いき(高市皇子)
山吹の 立ち装(よそ)いたる 山清水 汲みにゆかめど 道の知らなく(高市皇子)
(JO感想) 十市皇女(とうちのひめみこ)は波乱の人生をおくり悲劇に遭遇した女性ではないでしょうか。万葉一という歌人で美人で頭の良い額田王(ぬかたのおおきみ)と天武天皇の間の子供として生まれ、天智天皇の息子で近江朝を継いだ大友皇子の奥さんとなり葛野王を産む。
しかし、壬申の乱にて父とは敵となりご主人の大友皇子は父に殺されるわけです。(彼女が父である天武天皇に情報を送ったという説もあるそうですが)
そして、戦乱のさなかに天武軍の総大将である人望、知力、勇気ともに備えた高市皇子に救い出されるのですね。二人は、本来恋仲であったという説もありますし、その後夫婦であったという説もあるくらい中が良かったそうです。
しかし、天武の奥さん、権謀術数の後の持統天皇はこの二人が一緒になる事は万が一男の子でも生まれると、草壁皇子の地位が脅かされる訳ですね。何としても阻止する動きをしたのではないでしょうか。
天武7年に未亡人に関わらず、突然に泊瀬倉梯宮の斎宮という未婚の女性にしか任されない職に就かされたのです。これは誰の陰謀か判りませんが、高市皇子との仲を裂く策略です。赴任日の朝、突然に彼女は死んでしまいます。
天武天皇と高市皇子の悲しみは、いか程であったのか、暗殺なのか、自殺なのか、歴史は沈黙しています。
上記の挽歌はこの悲しみで生まれた、高市皇子の歌であります。
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